再⽣因⼦注⼊療法

コラム

肘の痛みとPRP療法(2)  野球肘

前回はテニス肘・ゴルフ肘についてお伝えしました。

【前回の記事はこちら】

今回は、第二弾として野球肘についてご紹介します。野球肘に対してもPRP療法が行われるようになっていますので、参考にしてください。

<野球肘の種類>

野球肘とは、投球動作を繰り返すことによって肘関節に生じる疼痛性障害の総称です。

原因は、速い球を投げること、悪いフォームで投げること、投げる球数が多いことで肘に負担がかかって起こる場合と、負荷が大きすぎることで骨や靭帯が破損してしまう場合があります。

起こる時期によって、成長途上の骨端に起きる発育型野球肘と、骨の成長完了後に関節軟骨や筋腱付着部に障害が起こる成人型野球肘に分類されます。また、障害の部位によって、内側型、外側型、後方型に分けられます。

主な疾患

内側型:内側側副靭帯損傷、回内・屈筋群筋筋膜炎、内側上顆骨端核障害

外側型;上腕骨小頭離断性骨軟骨炎、橈骨頭障害

後方型:肘頭疲労骨折、骨棘形成

<子どもの野球肘>

子どもの野球肘は、成長途上の骨端に多く障害が出ます。内側に徐々に痛みが出る「上腕骨内側上顆障害(リトルリーグ肘)」はよく見られる野球肘の一つです。

その他に内側に痛みが出る疾患としては、1球投げた時から痛みが出る「上腕骨内側上顆裂離」や「上腕骨内側上顆骨端線離開」。本来中学生頃に完成する成長軟骨と上腕骨の癒合がうまくできなくなった状態の「上腕骨内側上顆骨端線閉鎖不全」。通常高校生以降に起こる「内側側副靭帯損傷」などがあります。

外側に痛みが出るものに、「離断性骨軟骨炎(上腕骨小頭障害)」があります。最も重症になる障害の一つですが、初期には自覚症状がないことが多いので注意が必要です。

子どもの野球肘の治療は、まずは投球を中止して肘の安静を保つことです。無理して投球を続けていると、悪化して手術が必要になる場合もあります。早期発見・早期治療が重要です。

<成人の野球肘>

成人に見られる野球肘は、成長が完了した後に起こってくる肘関節軟骨や筋付着部に起こる障害です。野球を長い期間行っていることで、徐々に肘に変形が起こったり、関節ねずみが出来たり、大きな骨棘が出来たりといったことが生じます。

※関節ねずみとは:離断性骨軟骨炎や肘頭骨棘骨折、軟骨損傷などによってできた軟骨や骨のかけら(関節内遊離体)のこと。骨の間に挟まると激痛がおこります。

ここでは、プロ野球の投手が肘を手術したなどとニュースになる場合に多くみられる「内側側副靭帯損傷」について、詳しく見ていきましょう。

<内側側副靭帯損傷>

内側側副靭帯損傷は、代表的な野球肘の疾患です。投球の繰り返しにより劣化したゴムのように靭帯組織が劣化した状態になり、投球時の肘関節内側の痛みや圧痛(押すと痛い)が主な症状です。

重症になると、日常動作でも肘の不安定感や痛みが出たり、尺骨神経障害(小指側のしびれや感覚障害)が出たりする場合もあります。

治療としては、局所安静、投球禁止、筋力トレーニングがまず行われます。手術適応は、日常生活に支障を来たす例やハイレベルな競技活動の継続を希望する場合に限定されているようです。

<野球肘に対するPRP療法>

野球肘に対して行われるPRP療法の対象は、主に内側側副靭帯損傷となっているようです。保険診療で認められている標準治療では痛みや炎症がコントロールできない場合には、自由診療であるPRP療法を検討してみるのも一つの方法です。

消炎鎮痛目的としてステロイド剤を投与する治療があります。炎症や痛みに対して即効性のある治療法ですが、組織の治癒に必要な新陳代謝を阻害してしまうため、骨や軟骨が弱くなってしまうという副作用もあります。

つまり、何度もステロイド注射を繰り返すことは、手術が必要となる可能性を高めてしまうリスクがあるということです。同じ箇所を何度も傷めてしまうようなスポーツ選手や農業や漁業などに従事する方などは特に、このリスクを考えておく必要がありますね。

そこで、組織修復を促す再生医療であるPRP療法が検討される場合があります。組織に負担をかけずに慢性的な炎症が改善され痛みも軽減すれば、理学療法の導入がスムーズとなり、治療が進みやすくなるからです。

PRP療法の効果については個人差があると言われ、現在は自由診療として行われている治療でもあります。導入については担当医と相談し、適応の有無や見込まれる効果などをしっかりと確認してくださいね。

次回は肘部管症候群についてお伝えします。

参考サイト:

https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/baseball_elbow.html

https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000191.html

野球肘(やきゅうひじ) | 診療科・診療センター | 名鉄病院 (meitetsu-hospital.jp)

PRP療法とは?|骨と関節と筋肉の再生医療 (seikei-saisei.jp)

野球肘について | メディカルノート (medicalnote.jp)

スムーズにリハビリに移行し機能回復・維持を目指すための治療|PRP(多血小板血漿)療法は、治りにくい痛みの治療の新たな選択肢|整形外科の再生医療ガイド|関節ライフ (kansetsu-life.com)

金森 章浩 先生|筑波記念病院|骨と関節と筋肉の再生医療 (seikei-saisei.jp)